門松や おもへば一夜 三十年 行く春や 鳥啼き魚の 目は泪 あらたふと 青葉若葉の 日の光 鶯や 柳のうしろ 藪の前 梅が香に のっと日の出る 山路かな しばらくは 花の上なる 月夜かな おもしろや 今年の春も 旅の空 数へ来ぬ 屋敷屋敷の 梅柳 うかれける 人や初瀬の 山桜 西行の 庵もあらん 花の庭 夏草や 兵どもが 夢の跡 閑さや 岩にしみ入る 蝉の声 五月雨を あつめて早し 最上川 五月雨の 降りのこしてや 光堂 古池や 蛙飛び込む 水の音 雲の峰 いくつ崩れて 月の山 涼しさや ほの三日月の 羽黒山 松風の 落葉か水の 音涼し 夏草に 富貴を飾れ 蛇の衣 蛍見や 船頭酔うて おぼつかな 秋深き 隣は何を する人ぞ 荒海や 佐渡によこたふ 天の河 石山の 石より白し 秋の風 菊の香や 奈良には古き 仏たち 名月や 池をめぐりて 夜もすがら 秋風の 吹けども青し 栗の毬 朝茶飲む 僧静かなり 菊の花 隠れ家や 月と菊とに 田三反 この道を 行く人なしに 秋の暮 初雪や 水仙の葉の たわむまで 箱根こす 人もあるらし けさの雪 葱白く 洗ひたてたる 寒さかな 月雪と のさばりけらし 年の暮 なかなかに 心をかしき 臘月哉 金屏の 松の古さよ 冬籠り いざ行かん 雪見にころぶ 所まで 面白し 雪にやならん 冬の雨 旅に病んで 夢は枯れ野を かけめぐる あまり鳴て 石になるなよ 猫の恋 鶯や 懐の子も 口をあく 梅が香に 障子ひらけば 月夜かな 陽炎に さらさら雨の かかりけり 門松や ひとりし聞は 夜の雨 亀の甲 並べて東風に 吹れけり 蛙鳴き 鶏なき東 しらみけり 雀の子 そこのけそこのけ 御馬が通る 大名を 馬からおろす 桜かな 手枕や 蝶は毎日 来てくれる なの花も 猫の通ひぢ 吹とぢよ 初午に 無官の狐 鳴にけり 初夢に 古郷を見て 涙かな 春風に 箸を掴んで 寝る子かな 春雨に 大欠伸する 美人かな 春風や 牛に引かれて 善光寺 振向ば はや美女過る 柳かな 蓬莱に 南無南無といふ 童かな やせ蛙 負けるな一茶 ここにあり 夕ざくら けふも昔に 成にけり 夕燕 我には翌の あてはなき 夕不二に 尻を並べて なく蛙 雪とけて 村一ぱいの 子どもかな 行春の 町やかさ売 すだれ売 我と来て 遊べや親の ない雀 青梅に 手をかけて寝る 蛙かな 青すだれ 白衣の美人 通ふ見ゆ 暑き夜や 子に踏せたる 足のうら いざいなん 江戸は凉みも むつかしき うつくしや 雲一つなき 土用空 海の月 扇かぶつて 寝たりけり 雷の ごろつく中を 行々し 子ども等が 團十郎する 団扇かな 五月雨や 胸につかへる ちちぶ山 涼しさや 半月うごく 溜り水 凉しさや 山から見える 大座敷 雀子が ざくざく浴る 甘茶かな 蝉なくや 我家も石に なるやうに 夏の雲 朝からだるう 見えにけり 夏山の 洗ふたやうな 日の出かな 夏山や 一人きげんの 女郎花 夏の夜に 風呂敷かぶる 旅寝かな 寝せつけし 子のせんたくや 夏の月 芭蕉翁の 臑をかぢつて 夕凉 短夜や くねり盛の 女郎花 水風呂へ 流し込だる 清水かな やれ打な 蝿が手をすり 足をする 夕されば 蛍の花の かさいかな 夕立や けろりと立し 女郎花 夕月の 友となりぬる 蚊やりかな 青空に 指で字を書く 秋の暮 秋風や あれも昔の 美少年 秋の夜や 隣を始 しらぬ人 秋の夜や 旅の男の 針仕事 朝顔や したたかぬれし 通り雨 うしろから 秋風吹や もどり足 馬の子の 故郷はなるる 秋の雨 送り火や 今に我等も あの通り さぼてんの 鮫肌見れば 夜寒かな たまに来た 古郷の月は 曇りけり 七夕や 涼しき上に 湯につかる 人並に 畳の上の 月見かな 日の暮の 背中淋しき 紅葉かな 名月や 家より出て 家に入 山は虹 いまだに湖水は 野分かな 夕月や 涼がてらの 墓参 名月や 膳に這よる 子があらば 名月を とつてくれろと 泣子かな はつ雁も 泊るや恋の 軽井沢 初茸を 握りつぶして 笑ふ子よ 膝の子や 線香花火に 手をたたく 鬼灯の 口つきを姉が 指南かな 夕日影 町一ぱいの とんぼかな 世につれて 花火の玉も 大きいぞ 我星は どこに旅寝や 天の川 霰ちれ くくり枕を 負ふ子ども うつくしや 年暮きりし 夜の空 うまそうな 雪がふうはり ふはりかな 寒月や 喰つきさうな 鬼瓦 けしからぬ 月夜となりし みぞれかな けろけろと 師走月よの 榎かな 木がらしの 吹留りけり 鳩に人 木がらしや から呼びされし 按摩坊 これがまあ 終のすみかか 雪五尺 来る人が 道つけるなり 門の雪 凩や 常灯明の しんかんと さくさくと 氷かみつる 茶漬かな さはつたら 手も切やせん 冬木立 外は雪 内は煤ふる 栖かな 大根引 大根で道を 教へけり ともかくも あなた任せの としの暮 納豆の 糸引張て 遊びけり 猫の子が ちよいと押へる おち葉かな 人並に 正月を待つ 灯影かな はつ雪や それは世にある 人のこと 冬の雨 火箸をもして 遊びけり 夕やけや 唐紅の 初氷 雪の日や 古郷人も ぶあしらひ 湯に入て 我身となるや 年の暮 夜の雪 だまつて通る 人もあり 盥から 盥へうつる ちんぷんかん 露の世は 露の世ながら さりながら 妹が頬 ほのかに赤し 桃の宴 鶯の 筧のみほす 雪解哉 鶯や となりつたひに 梅の花 梅の花 柴門深く 鎖しけり 大桜 只一もとの さかり哉 霞んだり 曇つたり日の 長さ哉 観音で 雨に逢ひけり 花盛 木の末を たわめて藤の 下りけり 紅梅や 式部納言の 話聲 櫻狩 上野王子は 山つづき 白き山 青き山皆 おぼろなり たんほゝを ちらしに青む 春野哉 花の雲 かゝりにけりな 人の山 春の月 簾の外に かかりけり 春の夜の 石壇上る ともし哉 春の夜や くらがり走る 小提灯 ひらひらと 風に流れて 蝶一つ ひらひらと 蝶々黄なり 水の上 古寺や 葎の中の 梅の花 毎年よ 彼岸の入に 寒いのは 餅買ひに やりけり春の 伊勢旅籠 山吹の 花の雫や よべの雨 雪の絵を 春も掛けたる 埃哉 行く春や 大根の花も 菜の花も 行く人の 霞になつて しまひけり 夜桜や 大雪洞の 空うつり 雨雲を さそふ嵐の 幟かな 薄色の 牡丹久しく 保ちけり うつむいて 何を思案の 百合の花 炎天の 色やあく迄 深緑 柿の花 土塀の上に こぼれけり かたまりて 黄なる花さく 夏野哉 川せみや 池を遶りて 皆柳 行水を すてる小池や 蓮の花 芥子咲いて 其日の風に 散りにけり 五月闇 あやめもふかぬ 軒端哉 しづ心 牡丹崩れて しまひけり 涼しさや 猶ありがたき 昔かな 絶えず人 いこふ夏野の 石一つ 立ちよれば 木の下涼し 道祖神 たれこめて 薔薇ちることも 知らざりき 月赤し 雨乞踊 見に行かん 戸の外に 莚織るなり 夏の月 夏羽織 われをはなれて 飛ばんとす 葉桜や 昔の人と 立咄 昼顔の 花に皺見る あつさかな 昼中の 堂静かなり 蓮の花 蛍飛ぶ 中を夜舟の ともし哉 水打て 石燈籠の 雫かな 山里に 雲吹きはらふ 幟かな 六月を 綺麗な風の 吹くことよ 秋晴て 故人の来る 夕哉 朝顔の さまざま色を 尽す哉 いさましく 別れてのちの 秋の暮 一日の 秋にぎやかに 祭りかな 稲妻を しきりにこぼす 夕哉 送られて 一人行くなり 秋の風 柿くへば 鐘が鳴るなり 法隆寺 鶏頭の 十四五本も ありぬべし しづしづと 野分のあとの 旭かな せわしなや 桔梗に来り 菊に去る 禅寺の 門を出づれば 星月夜 月暗し 一筋白き 海の上 露なくて 色のさめたる 芙蓉哉 鳥啼いて 赤き木の実を こぼしけり 長き夜や 千年の後を 考へる 初秋の 簾に動く 日あし哉 灯ともして 秋の夕を 淋しがる 昼中の 残暑にかはる 夜寒哉 松山や 秋より高き 天主閣 三日月の 重みをしなふ すゝきかな 道尽きて 雲起りけり 秋の山 めいげつに 白砂玉とも 見ゆるかな 名月や 叩かば散らん 萩の門 行く秋や 一千年の 仏だち をととひの へちまの水も 取らざりき 朝霜に 青き物なき 小庭哉 いくたびも 雪の深さを 尋ねけり 色さめし 造り花売る 小春かな 面白や かさなりあふて 雪の傘 菊枯て 垣に足袋干す 日和哉 菊の香や 月夜ながらに 冬に入る 鶏頭の 黒きにそそぐ 時雨かな 琴の音の 聞えゆかし 冬籠 淋しさも ぬくさも冬の はじめ哉 山門を 出て八町の 冬木立 白菊の 少しあからむ 時雨哉 薄とも 蘆ともつかず 枯れにけり 栴檀の 実ばかりになる 寒さ哉 谷底に とどきかねたる 落葉哉 月影や 外は十夜の 人通り 月の出や はらりはらりと 木の葉散る 団栗の 共に掃かるる 落葉哉 南天を こぼさぬ 霜の 静かさよ 冬枯の 中の錦を 織る処 冬枯を のがれぬ庵の 小庭哉 冬牡丹 頼み少く 咲にけり ほんのりと 茶の花くもる 霜夜哉 山里や 雪積む下の 水の音 夕月の おもて過行 しぐれ哉 雪ながら 山紫の 夕かな